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すぐに薪を背負ったヨシが、ミコの手を引いて帰ってきた。
顔色が優れぬヨシの様子を見て、三郎が、ほれ、と椀を渡す。
「イダテンが頭痛に効く薬湯とやらを作ったぞ」
「まあ、イダテンが?」
ヨシは、眼を閉じて匂いを嗅ぐと、
「効きそうなこと」
と、ためらいもなく、ぐいと飲みほした。
イダテンは唖然とした。
困惑したといったほうが近いかもしれない。
ヨシが、こうも簡単に口にするとは思わなかったのだ。
自分が先に飲んで見せるつもりだった。
横に置いた根茎も、この薬湯が毒ではないと、わからせるために残していたのだ。
そこまでしても、口にしないのではないかと考えていた。
怪しげな、鬼の子が作ったものだ。それが人というものだろう。
ヨシは、にっこりと微笑んで続けた。
「作り方は秘伝ですか?」
意外なことを聞かれ、いや、とイダテンは首を振った。
その答えにあわてたように三郎がすり寄ってきて袖を掴んだ。
「まてまて、イダテン。もしも、この薬湯で、おかあの頑固な頭痛が治るなら、これで一儲けできようぞ。ここはひとつ、秘伝ということに……」
「三郎!」
頭痛で苦しんでいるとは思えないヨシの声が家中に響き渡った。
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