第二十五話  武門の子

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叶わぬ望みだが、美しい建築物を建てるには算術も必要に違いない。 書物をあたるなら読み書きも必要だろう。 その思いが口に出た。 「そうじゃな、証文も読めぬから騙される。算術もできねば騙されよう。おまえが言うなら間違いあるまい……面倒そうじゃが、やってみるかのう」 三郎は、意外なほどあっさりと受け入れた。 そして、あぐらをかいたイダテンの足の上に頭をおいて、すやすやと眠るミコに目をやった。 ミコの髪の毛はつむじの上で括られている。 イダテンの真似をしているのだ。 イダテンが、この髪型にしているのには訳がある。 髪の毛を括った布の下に鬼の力を封じる呪符を挟み込んだのだ。 まとわりついてくるミコに、うっかりケガをさせてしまわぬようにと。 この呪符を見つけた時は困惑した。 母は、なぜこのようなものを残したのかと。 それでも形見として持ち歩いていた。 留守の間に家を荒らされたことがあるからだ。 母は、このような時が訪れると予想したのだろうか。 とはいえ、このままでは、ミコも三郎と同じ目に合うだろう。 自分がここにいることで、三郎たちに迷惑がかかる。
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