294人が本棚に入れています
本棚に追加
叶わぬ望みだが、美しい建築物を建てるには算術も必要に違いない。
書物をあたるなら読み書きも必要だろう。
その思いが口に出た。
「そうじゃな、証文も読めぬから騙される。算術もできねば騙されよう。おまえが言うなら間違いあるまい……面倒そうじゃが、やってみるかのう」
三郎は、意外なほどあっさりと受け入れた。
そして、あぐらをかいたイダテンの足の上に頭をおいて、すやすやと眠るミコに目をやった。
ミコの髪の毛はつむじの上で括られている。
イダテンの真似をしているのだ。
イダテンが、この髪型にしているのには訳がある。
髪の毛を括った布の下に鬼の力を封じる呪符を挟み込んだのだ。
まとわりついてくるミコに、うっかりケガをさせてしまわぬようにと。
この呪符を見つけた時は困惑した。
母は、なぜこのようなものを残したのかと。
それでも形見として持ち歩いていた。
留守の間に家を荒らされたことがあるからだ。
母は、このような時が訪れると予想したのだろうか。
とはいえ、このままでは、ミコも三郎と同じ目に合うだろう。
自分がここにいることで、三郎たちに迷惑がかかる。
最初のコメントを投稿しよう!