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「出世すれば、ミコを嫁にやる時も立派な衣装と嫁入り道具を持たせることができよう……ミコは、わしの本当の妹ではないのじゃ。おかあの妹の子での。ミコのおかあは、一年ほど前に、はやり病で死んだ……おとうは、ろくでなしでな」
それで引き取ったのか。
そのろくでなしが誰であるかも見当がついた。
三郎の父が十年前に死んだことは老臣から聞いていたが、新たな連れ合いとの間の子だろうと思っていた。
三郎がこうしていられるのも春までだという。
今でも水汲みや畑仕事を手伝っているが、貧しい者は幼いうちから大人にまじって働かなければならない。
ここで目覚めた日の水汲みを思い出した。
三郎やそれより幼い童には、さぞかし辛かろうと。
水から少し離れた所に支点を置き水を汲み上げる、跳ね釣瓶という造作物であれば作ってやることはできる。
だが、桶をおろすときに力がいる。童には使いこなせまい。
――そこまで考えて三郎のかたわらに転がっている独楽が目に入った。
ミコが教えろと言うので持ってきたのだ。
結局、ミコには、回すことができなかったが。
じっと見つめるイダテンの様子が気になるのだろう。
三郎が声をかけてきた。
「どうした?」
「細工をしても良いか?」
急かすように問いかけた。
閃いたのだ。
うまくいきそうな予感がする。
三郎は、いつもと様子の違うイダテンに戸惑いながらも、これか、と独楽を差し出した。
「かまわんぞ。これは、おまえにやったものじゃ」
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