第二十五話  武門の子

5/5
前へ
/408ページ
次へ
矢を入れた筒袋の横にある物入れから小さなノミを取り出した。 研ぎはしっかりとかけられている。 「何でも入っておるな」 という、三郎の言葉を聞きながら、眠っているミコの頭に手を回した。 身内のおばばを別にすれば人と触れ合うことなど一度もなかった。 ましてや抱き上げることがあろうとは想像すらできなかった。 そっと横の草地に降ろして取り掛かった。 「なんじゃ、これは? なにかの見立か?」 出来上がったものを見て、三郎が我慢できずに聞いてきた。 「丸太と軸になる丈夫な木は手に入るか? できれば(かし)がよい。丸太は切れ端でかまわぬ」 三郎は目を輝かせた。 「これの大きなものを作るのじゃな。どれぐらいの大きさじゃ」 一尺は欲しいと、両手で大きさを示す。 三郎は、 「わかった。道具も借りてきてやる」 と、口にして走り出したが、すぐに戻ってきた。 何かと思えば、真剣な眼差しで、 「今度は、わしにも手伝わせるのじゃぞ。よいな」 と、念押しした。 イダテンがうなずくと、満面の笑みを浮かべて、 「わしに任せろ」 と、飛び出していった。 すやすやと眠るミコを残して。 ミコの顔にかかるほつれ毛を直し、自分の首に巻いていた麻布を広げて胸元に掛けてやる。 今日は暖かいが、今年の冬は寒いという。     *
/408ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加