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第二十六話 天分
一の郭と二の郭の間にある空堀土手の井桁のまわりに多くの人が集まっていた。
湧き水を汲むだけの場所にもかかわらず、まるで祭りでもやっているかのような賑わいだった。
その騒ぎが邸にも届き、忠信が様子を見に来たのだ。
市女笠に虫の垂れ絹をつけた梅ノ井も、姫の手を引き、しぶしぶ同行している。
「何事じゃ。この騒ぎは」
近くにいた宮大工の兎丸が振り返り、問いに答えた。
「これは、忠信様。鬼の子が、ほれ、あのようなものを」
土手と土手との間に二本の丸太を渡し、屋根のような物がつけられていた。
その下で、いい年をした男どもまでが童のようにはしゃいでいる。
「おおっ、これは楽じゃ。嘘のように軽い」
「おなごや童でも軽々と上げられよう」
「ぐるぐると、よう回っておる」
屋根の梁からぶら下げられた車輪のようなものが心棒を中心に回っていた。
独楽のようにも牛車の車輪のようにも見える。
車輪の外周には溝が掘られ、そこに縄がかけられている。
その縄をひくと、水の入っているらしい桶が軽々と上がってくる。
三郎よりも幼い歳の童が嬉しそうに引き上げた。
歓声も上がる。
三郎が、その中心で自慢げに笑みをうかべている。
イダテンの姿はない。
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