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「どうじゃ、イダテンが作ったのじゃ」
「イダテンが、つくったの」
かたわらで、ミコが車輪を指差し、声を張り上げている。
「どういうことじゃ?」
「イダテンが、あれを作ったのですか?」
姫が、虫の垂れ絹を上げているのを見て、梅ノ井が慌てて、「姫君」と、声をかける。
それに気づいたミコが、「姫さま」と、声を上げる。
あっという間に、周辺が驚きと喜びに包まれる。
「なんと、お美しい」
「お元気そうで」
と、いう声も耳に入る。
常であれば姫を慕う者たちの反応を楽しむ忠信であったが、こたびばかりは奇妙な造作物に釘付けとなった。
「わしにも見せてみよ」
「おおっ、忠信様。釣瓶車を見てくだされ」
忠信の姿に気づいた三郎が満面の笑みで迎える。
忠信は、姫の警護もそこそこに井桁に近づき、順番を待っていたらしい童を押しのけ、縄を手にとった。
縄を引くと牛車の車輪に似た物が、からからと回り、桶が上がってくる。
「……なんと」
騙されているのではないかと思うほど軽い。
水がろくに入っていないのではないかと桶の中を覗き込んだ。
忠信は、道隆寺が建立されたときに見た風景を思い出した。
大工たちは柱を高所に引き上げるため、太い丸太をくりぬいて梁に通した滑車と呼ばれる造作物を使っていた。
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