第二十六話  天分

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おそらくあれと同じものであろう。 が、見た目はずいぶんと違う。 幼き頃、あれを見たのだろうか。 いや、道隆寺の建立はイダテンの生まれる前だ。 首をひねる忠信に、宮大工の兎丸が声をかけてきた。 「気がつきましたか?」 「滑車とか申したか、のう」 「大した工夫ですぞ。われらが使っているものとは別物のように軽い」 「……であろうな」 「われらが使ってきたのは重い柱を吊り上げるための物。この滑車は、いかにも頼りなげではありますが、桶の水であれば十分なのでありましょうな」 人は川か湧き水のそばに住む。 日々のことを考えれば自然とそうなる。 都には地面を深く掘って地下から水を汲みあげる井戸というものがあるというが、掘るのには手間がかかり、とんでもない費用が掛かるという。 井戸は深いため、多くは滑車付きの釣瓶を使うものの、忠信が道隆寺で見たものと同じ様式で、これほど軽くはないというのである。 「わたしにも」 その声に振り向くと、姫が縄に手をかけようとしていた。 「なりません。姫君のなさることでは、ありません。お召し物も汚れましょう」 梅ノ井の制止に不満げな姫とは対照的に、三郎が笑顔を浮かべ、もの言いたげに忠信を見上げていた。     
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