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「……これをイダテンが工夫したというか?」
「イダテンが考えたのじゃ。わしも手つどうた」
と、つけ加える。
近くにいた男たちが口々に褒め讃える。
「これなら童でも水汲みができよう」
「屋根があるのも良い」
「作りも美しい」
三郎が満足げに応じた。
「イダテンは何をやらせてもうまいぞ」
「姫さま、みて、みて! これもイダテンがつくったの。ミコが、もらったんだよ」
自慢げに、「ほらーっ」と、小さな手のひらを開くと、二寸ほどのうさぎの木彫りが現れた。
「まあ……」
姫が絶句したのも無理はない。
うさぎは、何かの気配を察知したかのように立ち上がり、ぴんと張った耳には緊張感さえ見える。
名のある仏師でも、はたしてこれほどの物が作れようかと思うほど、見事な出来だった。
「どこぞの仏師が彫ったのであろう」
ミコには、仏師が何を意味するかはわかっていないだろう。
それでもイダテンが作ったのではないと言われていることが分かったようだ。
唇を尖らせて忠信に抗弁する。
「ちがうもん。イダテンがつくったんだよ。ミコはみてたんだもん」
「おお、その通りじゃ、わしも作ってもろうたぞ」
三郎が、懐から木彫りの馬を取り出した。
三寸はあるだろうか。
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