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螺鈿細工をほどこした漆塗りの豪奢な碁盤に視線を戻す。
整地をするまでもない。
黒を譲られたときに、いやな予感はしたのだ。
「わたしの勝ちですね」
姫が満面の笑みを浮かべていた。
「謀りましたな」
「ずるはしておりませんよ」
確かにずるではない。
だが、自分の力を隠していた。
「武士(もののふ)である、じいは約束を守ってくれると信じています」
姫の言いたいことはわかる。
世の中には読み書きや算術の出来ない者が大勢いる。
武士でさえ例外ではない。
童たちに、そのような場を作ってやるのは良いことだ。
だが、ささらが姫、自らが教えるとなると話は別だ。
しかも、こたびの提言は、イダテンが独学でも建築を学べるようにということから始まっている。
「持読を探してまいりますゆえ、それからといたしましょう」
「適任の者が決まるまでは、わたしが教える、と言う勝負だったのですよ」
姫に任せるぐらいなら自分がやったほうがましだ。
だが、忠信自身、読み書きができないのだ。
梅ノ井では、童たちを怒らせてしまうだろう。
いや、そもそも話を受けさえしないだろう。
姫は、下人の子にも教えようとしているのだから。
「三郎も義久と同様、読み書きはできぬのでしょう?」
「武士たるもの武芸が第一ですからな」
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