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三郎が言葉に詰まり、そして、絞り出すように口にした。
「わが家は『武家』とは言えぬのじゃ」
振り向いてイダテンを見つめてきた。
その眼には怯えがあった。
「――いや、名を騙っているわけではない。十年前までは確かに武家であったのだ。胸を張って武士と口にできたのだ。武士とは……国司さまの交代の際の『大狩り』に招かれた者を言うのじゃ」
三郎の声が震えていた。
「……気がついておろう。領地も役料もないわが家では馬を買うことはおろか、養って行くことさえできぬのじゃ。おお、その通りじゃ。馬が無ければ大狩りには参加出来ぬのじゃ。どれほどの弓の腕があろうとも武士とは名乗れぬのじゃ。次に大狩りがあったときに継信様が健在であれば、借りることはできよう……だが、所詮は借り物じゃ。いざというとき、はせ参じることができずに武士と名乗れようか」
その大伯叔も領地持ちではない。
荘園の管理をして役料を得ているにすぎない。
国司が代われば、その役も保証の限りではない。
おじじも領地のない公家侍という立場だ、と続けた。
「鷲尾の名を再び轟かせるのじゃ。再興せねばならんのじゃ。三郎ヨシモリが名でな……戦に出て、手柄を立てるのだ。領地を得れば馬など何頭でも飼える。堂々と武士と名乗れる」
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