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「イダテンに見せたんだから、もう土間に置きなさい」
と、ヨシから言われ、
「だめーっ、明日までだめ。そばにおいてねるの」
「ねえねえ、これも買ってもらったんだよー」
と、言いながら鬼灯色の衣を羽織り、ぐるぐると回った。
「わしはこれじゃ。おまえにと選んでみた。色目もなかなかのものであろう」
包みを広げると、黒に近い濡羽色と竜胆色の大きな布、さらには手甲や脛巾に加え括袴まであった。
これを使えば髪の毛だけでなく腕や足も隠せよう。
人のいるところに出ても目立たないようにという配慮だろう。
「それから、おかあからだ」
「数は少ないのですが」
と、差し出されたのは紙の束だった。
姫がくれた物に比べれば質は悪い。
それでも、紙そのものが贅沢品なのだ。ずいぶんと高かったに違いない。
「このようなものは受け取れぬ」
三郎は、「相変わらずじゃのう」と、いいながら、
「おまえの作った、釣瓶車ひとつで、どれだけここの暮らしが楽になったことか……忠信様から礼として銭と布も出た……おおっ、ほれほれ、そのような顔をする。どうせおまえは受け取るまいと、われらに渡されたのだ」
三郎たちが礼を受け取ったことに不満があったのではない。
むしろ驚いたのだ。
自分が作ったものに対価を払おうという者がいることに。
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