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第三十一話 進言
平伏した、その額から汗が噴き出す。
主人の機嫌が悪い。
宗我部国親の名を出した途端にこのありさまだ。
御簾の向こうには、この地の国司、阿岐権守と妻である北の方がいる。
「ささらがが、鬼の子を助け、そなたの親族のもとで治療させておるとは聞いておったが……」
話題も国親の話からそれていく。
主人の怒りを察して、北の方が言葉を補う。
「近頃は、なにやら習い事をさせておるとか」
「はっ、郭内の湧き水を汲みあげる釣瓶に工夫を加えまして、皆が重宝しております。工芸、建築の才能は宮大工でさえ驚嘆するほど優れており、開花させるには、読み書き、算術をと……なにより、自ら持読をされることが張りになったのか、病がちであられた体調も、このところ――」
主人が、いら立ちを隠そうともせず遮った。
「鬼の子と呼ばれているからには、人ではないものであろう」
「見かけは奇なれど、一度たりとも民に力を揮うことなく……念のために、常に二、三人張りつけておりますれば」
主人が人の話の途中で扇を開いた。
機嫌の悪い時の癖である。
北の方がやんわりと間に入る。
「以前は、そなたの孫の義久を気に入っておりましたね」
「その節は……」
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