第三十一話  進言

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「義久の悪童ぶりにも驚かされましたが、こたびは、それとは違いましょう」 これまでは幾度も忠信を支持してくれていた北の方であったが、風向きが違うようだ。 同席したのも、これが目的だったのだろう。 加勢を得た主人が、ここぞとばかりにたたみかける。 「どうやら、一癖あるものに興を惹かれるようだな。唐猫だけではものたりぬか」 「それは……」 いかに主人といえど、口にして良いことと悪いことがある。 確かに義久は悪童ではあったが、鷲尾の家を再興するに足る器だと思っていた。 兄、信継も、そう期待したからこそ、長年封印してきた「義」の文字を許したのだ。 「未だに、扇さえ使わぬことがあるというではないか。加えて雑仕女どころか鬼とも直接言葉を交わすなど言語道断……甘やかしすぎたかの、忠信」 これには返す言葉がない。 忠信にとっては、自慢の姫様でも、公家の姫君としては明らかに不適格な行為であろう。 それを許してきたのはほかならぬ忠信である。 「はっ」と、頭を下げて見せたが、北の方から追い打ちがかかる。 「鬼の子の性根がどうのというより、人の口に戸は立てられぬ……そうではありませんか」
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