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「義久の悪童ぶりにも驚かされましたが、こたびは、それとは違いましょう」
これまでは幾度も忠信を支持してくれていた北の方であったが、風向きが違うようだ。
同席したのも、これが目的だったのだろう。
加勢を得た主人が、ここぞとばかりにたたみかける。
「どうやら、一癖あるものに興を惹かれるようだな。唐猫だけではものたりぬか」
「それは……」
いかに主人といえど、口にして良いことと悪いことがある。
確かに義久は悪童ではあったが、鷲尾の家を再興するに足る器だと思っていた。
兄、信継も、そう期待したからこそ、長年封印してきた「義」の文字を許したのだ。
「未だに、扇さえ使わぬことがあるというではないか。加えて雑仕女どころか鬼とも直接言葉を交わすなど言語道断……甘やかしすぎたかの、忠信」
これには返す言葉がない。
忠信にとっては、自慢の姫様でも、公家の姫君としては明らかに不適格な行為であろう。
それを許してきたのはほかならぬ忠信である。
「はっ」と、頭を下げて見せたが、北の方から追い打ちがかかる。
「鬼の子の性根がどうのというより、人の口に戸は立てられぬ……そうではありませんか」
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