第三十一話  進言

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主人が、話しはこれまで、とばかりに直衣の袖を振って腰を上げる。 「鬼とは退治すべきもの。それができぬというのであれば、山に戻すべきであろう――隆家が退治したがっておったぞ」 血の気の多い隆家様ではあるが、行動に移すことはないだろう。 人に害を与えぬモノを退治したのでは、男としての矜持が立たぬからだ。 加えて主人同様、流罪の身である。 朝廷の許可なく外出すれば罰せられよう。 「仰せのとおり、考えが足りませんでした」 このまま話を打ち切られては、何のための報告かわからない。 床に額をあて、続けた。 「――宗我部国親の動きがおかしゅうございます。ことを起こされれば、とても、この邸の侍だけでは抑えることはできませぬ……一刻も早く隆家様に援軍を求めるが肝要と存じます。その時に備え、馬より速く駆けることのできるイダテンを手元に置きとうございます。どうか、しばしの猶予をいただきたく」 傲慢不遜の国親ではあるが、貴族の前では慇懃に振る舞い、裏では手段を選ばぬ謀略と調略で怖ろしいほど急速に勢力を拡大してきた。 それは、武士が貴族をも上回る力を持つ時代が来るのではないかと夢を見させてくれるほどの勢いだった。 「宗我部が謀反のう。わが面前で、弓を引くは、帝に弓を引くも同然。あやつが、いかに欲深いとはいえ、そこまで愚かではあるまい」     
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