第三十一話  進言

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以前にも、国親のこれまでの所業に加え、今後の謀反や謀殺の可能性について触れたが、一笑に付された。 臣従するふりを装いながら裏切る者はいくらもいる。 その性根を見抜くことが出来ないのだ。 ゆえに、このような鄙びた地に流されるのだ。 とはいえ、その主人を補佐し支えるのが臣下の役目でもある。 確証を取れずにいるが、近々ことを起こすだろう。 このままでは船越満仲様の二の舞である。 覚悟を決めて口にした。 「左大臣と繋ぎをとっているのではないかという者もございます」 「何が左大臣じゃ! あの男は策謀に長けておるだけではないか。わたしが呪詛を行ったなどと、ありもしない罪まで押し付けおって」 「あなたさま」 北の方がいさめる。 かつて、わが主人が、勅命がない限り行えない呪詛、大元帥法を行ったかどうかは知るよしもない。 北の方の父君が主導したという噂もあった。 だが、この地に赴任することになったそもそもの原因は弟の隆家様と謀り、法皇様を待ち伏せて矢を射かけたからである。 退位したとはいえ先の帝を襲ったのである。 許されるはずがない。 主人には三か条の罪状により国司に貶める宣旨が下された。 つまりは流罪である。 「わかっておる。この地で往生するのも悪くはあるまいよ」 主人はことあるごとに、そう口にする。     
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