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「国親ほど、しっかりと年貢を徴収できる郡司は、なかなかおらぬと聞くぞ」
主人の怒りは収まらない。
「国親より、薬王寺の紅葉の宴に誘われた。以前より開墾の相談に乗ってもらえぬかと打診があった。その話もあるのだろう」
「お待ちください。万一、その宴のことが朝廷に伝わりましたら……」
思わず主人の話をさえぎった。
主人の機嫌などうかがってなどいられなかった。
流罪の身である主人は、朝廷の許可なく邸の外に出ることも、国衙の政に介入することも禁じられていた。
ゆえに役人に任せざるを得ないのだが、近頃は、その役人も国親の言いなりである。
この邸内の宴であれば言い訳もできよう。
開墾の相談に乗ったと釈明したところで、邸の外に出たという事実に変わりはない。
左大臣の腹ひとつだ。
主人とて、それは重々承知のはずだ。
「あの男が難癖をつけたところで、帝がお許しになるものか」
下衆ごときが意見をするなとばかりに続けた。
「そなたのように、あれこれと疑っていては相手に伝わろう。今後は、国親に国衙の警護をまかせることにする……そなたは、宴には同席せずとも良い」
進物や、かかる費用のことばかりではないのだろう。
都に帰れるのであれば。有力な武士を自分の影響下に置くことは、有益だ。
主人がそう考えている――そうとでも考えねば、仕えているおのれがみじめだった。
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