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第三十三話 都からの使者
国親の身辺を探らせている糸平からの報告が途絶え七日が過ぎた。
これまで、二、三日おきに連絡があったことを思えば、始末されたと見るべきだろう。
家族のこともよく知っているだけに頭が痛い。
庭に出て、頭を冷やしていると、東廂をばたばたと音を立て、一目散に寝殿に向かう広成の姿が見えた。
「なにごとじゃ」
「ああ、これは、忠信様……それが、その……」
「落ち着け」
「……都からの使者が」
*
忠信は、使者である女官の言伝に、主人が一瞬とはいえ歓喜の表情をうかべたのを見逃さなかった。
自分は、宗我部兄弟の逆心以上に、このことを怖れていたのかもしれない。
こたびの話は、今上帝の母君でもあり主人の伯母君である東三条院様が左大臣の権勢を削ごうと働きかけたこともあろう。
だが、姫の名が高まるに連れ、この日が来ることは予測できた。
どれほど体裁をつくろったところで主人の答えは決まっていよう。
断れるはずもない。
裳着を早めると言い出したことがなによりの証だ。
貴族の姫君の諱は両親や夫しか知らない。
名前を呼ばれると支配されると信じられているからだ。
ヨシが乳母をしていた時に姫の諱を偶然耳にしたことがある。
姫が不憫でならなかった。
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