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流れるような詠うような、ささらが姫の、この声を聞いていたかったのではないだろうか。
「ヨシに用意してもらいました」
訊きもせぬのにそう答えた。
「なんの用だ」
姫は、その問いには答えず、不満げに口にした。
「三郎たちに訊いて、何度も足を運んだのですよ。あなたは、よくここにいると」
よくも抜け出せたものだ。
そういえば、近頃はイダテンを見張っていた男の姿もない。
「このようなところに来てはまずかろう」
「良いではありませんか。何かあればあなたが守ってくれましょう……それより、そこへは、上げてくれないのですか?」
「落ちたらどうするのだ」
「あら、ミコは、上げてもらったと申しておりましたよ。とても面白かったとも」
おもわず顔をしかめた。
もっとも、普段からそのような顔をしているので気づかれなかったかもしれないが。
ミコと同じように抱き上げて登ってやるわけにはいくまい。
縄梯子を幹に沿って下ろしてやった。
これであきらめるだろう。
邸で暮らしているような者には、まず登れまい。
ところが、姫は、ためらうどころか楽しげに横木に手をかけた。
いつもは衣で隠れている白い腕が袖の下から覗く。
裾からは足首どころかふくらはぎまで覗かせ、足を掛けた。
万一に備えて、下で見守っていたが、以外にお転婆なようだ。
イダテンは、ひと跳びで枝の上に戻った。
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