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第五十一話 すすきが原
――そこに、法螺貝の音が鳴り響いた。
邸を攻略したという合図であるなら急がねばならない。
戦が終わるということは手のあいた兵が増えるということだ。
追手の数も増えるだろう。
南西の空に望月が見える。
その月を背に、近くの大きな岩に登り、邸とは反対側の麓に目をやった。
いくつかの篝火が焚かれていた。
旗も見える。
予見していなかったわけではないが、手回しのよさに感心した。
あれほどの兵で取り囲みながら、万一に備えていたのだ。
右手には田畑や雑木林。
左手には、すすきが原と呼ばれる銀色に輝く広大な荒地が見える。
望月を左に、すすきが原を目指して一気に駆け降りた。
篝火や旗がほとんど見当たらなかったからだ。
だが、それは罠だった。
すすきが原に入り、すすきの穂を揺らしたとたんに数えきれないほどの矢が飛んできた。
左上腕に衝撃がはしり、体勢をくずした。
見ると、衣から矢がぶら下がっていた。
後方から飛んできた矢が腕の肉を削り、衣に突き刺さったようだ。
矢を引き抜き、投げ捨てる。
腕が振れず、速度が落ちた。
矢が、雨のように降り注いできた。
避けようとして窪みに足を取られた。
踏ん張りきれず、たたらを踏み両手をついた。
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