第五十一話  すすきが原

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四間ほど先の小さな藪に目をやると、箙の矢に手をかけている武士の姿があった。 身を起こすより早く、弾けるように跳んで、男の顔に蹴りをいれた。 吹き飛んだ男は、滑るように藪から飛び出し、すすきの穂を揺らした。 その揺れを目がけて三方から矢が放たれる。 最初の一、二本こそ反応を示したが、五、六本も受けると、男の体は、ぴくりともしなくなった。 藪の奥行きは、せいぜい十間(※約18m)と言ったところだろう。 目を凝らすと、三間ほど先で、なにやら動くものがある。 忍び轡を噛ました馬と武士の従者だ。 従者は矛を手に震えていた。 イダテンと目が合ったとたんに、声ならぬ声をあげ逃げ出した。 すすきを揺らし、走り出した男に矢が降り注ぐ。 倒れて動かなくなると、矢も飛んでこなくなった。 矢にも限りがある。 反撃できる力が残っているかどうか、様子を見ているのだ。 しばらくすると、口笛が鳴った。 西の方向から鎧武者が馬を駆り、月の明かりを浴びて輝くすすきの穂をかき分け、近づいてきた。 戦果を確かめにやってきたようだ。 鎧武者は、手綱を離し矢をつがえ、従者が倒れたあたりに加え、藪の様子を用心深く窺っている。 このままでは射殺されるだろう。 かといって、先に矢を放てば、潜んでいる場所を教えることになる。     
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