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四間ほど先の小さな藪に目をやると、箙の矢に手をかけている武士の姿があった。
身を起こすより早く、弾けるように跳んで、男の顔に蹴りをいれた。
吹き飛んだ男は、滑るように藪から飛び出し、すすきの穂を揺らした。
その揺れを目がけて三方から矢が放たれる。
最初の一、二本こそ反応を示したが、五、六本も受けると、男の体は、ぴくりともしなくなった。
藪の奥行きは、せいぜい十間(※約18m)と言ったところだろう。
目を凝らすと、三間ほど先で、なにやら動くものがある。
忍び轡を噛ました馬と武士の従者だ。
従者は矛を手に震えていた。
イダテンと目が合ったとたんに、声ならぬ声をあげ逃げ出した。
すすきを揺らし、走り出した男に矢が降り注ぐ。
倒れて動かなくなると、矢も飛んでこなくなった。
矢にも限りがある。
反撃できる力が残っているかどうか、様子を見ているのだ。
しばらくすると、口笛が鳴った。
西の方向から鎧武者が馬を駆り、月の明かりを浴びて輝くすすきの穂をかき分け、近づいてきた。
戦果を確かめにやってきたようだ。
鎧武者は、手綱を離し矢をつがえ、従者が倒れたあたりに加え、藪の様子を用心深く窺っている。
このままでは射殺されるだろう。
かといって、先に矢を放てば、潜んでいる場所を教えることになる。
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