第五十一話  すすきが原

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だが、このあたりのすすきは大人の背より高い。 葉や茎に当てねば出所はわかるまい。 風で揺れていることは気になったが、覚悟を決め、痛む腕を叱咤して、弦を引き絞った。 矢は、すすきの穂と葉の間を縫って馬の胸に吸い込まれた。 馬とともに前倒しになるところに二の矢を放った。 矢は首を貫き、鎧武者は何ひとつできぬまま地面に叩きつけられた。 射る音も、馬がすすきをかき分ける音でかき消されたはずだ。 苦しげな馬のいばえもすぐに途絶え、再び静寂が訪れた。 姫は相変わらず目を覚ましていない。 目前の死地からは脱したものの、考えもなく飛び出せば、先ほどの男たちと同じ運命が待っているだろう。 かといって、じっとしていれば包囲を狭められる。 加えて押し寄せる冷気が体力を削る。 弓を背負子に括り付け、かじかむ手に息を吹きかけ手斧を握った。 ――と、その冷気を切り裂くように指笛の音が響き渡った。 それは、興奮を隠そうともせず、すすきをかき分け、吠えながら近づいてきた。 犬が放たれたのだ。 山犬が襲ってきたと思ったのだろう。 馬が怯えて腰を引いた。 すすきの間から二匹の犬が姿を見せた。 狩りに使われているらしく、慣れた様子が見て取れる。 藪から追い出そうというのだ。     *
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