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その縄の束をほどき、武士の残した弓と矢を交差させるように結んでいく。
出来上がった物から伸ばした縄を馬の鞍に繋ぎ、手綱を木からほどいて尻を突いた。
馬は、縄と弓矢で作った仕掛けを引いて勢いよく飛び出した。
それは六間も後方のすすき野をざわざわと揺らした。
それを目がけて大量の矢が放たれた。
息を整え、背中の姫がじっとしていることを確認すると、方向を変えて思いきって跳び出した。
月の光を浴びた鴇色の雅な袿の袖がひるがえる。
すべての兵を騙すことはできなかったようだ。
二の矢をつがえた者もいたのだろう。
唸りをあげて矢が飛んできた。
かまわず腕を振り、地を蹴り、全力で突き進んだ。
何人かの敵と、鉢合わせをしたが、頭上を跳び越え、横をすり抜け、すすきが原をあっという間に駆け抜けた。
すぐに、馬のいばえも遠くなり、飛んでくる矢が減った。
どうにか振り切ったようだ。
だが、追手たちもあきらめたわけではない。
振り返ると馬に乗った伝令たちが四方八方に散っていくのが見えた。
おそらく要所、要所に人は配置しているだろう。
逃げ込む先はわかっているのだから。
それでも姫を生かして、そこにたどりつかせると面倒なことになる。
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