第五十三話  ろくでなし

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風切り音は蹄の音でかき消されているだろう。 手の内を滑らせながら、さらに大きく振り回した。 縄と手斧は絵に描いたように見事に巻きつき、男は背中から落ちた。 体に当たったのは斧頭側だ。 致命傷にはなっていないだろう。 馬は、しばらく走ってから、様子を窺うように立ち止まった。 イダテンは、慎重に後ろから回り込んだ。 男の腰に吊るされた太刀を引き抜き、膝を背にあて、喉に腕を巻きつける。 「騒ぐな。国親は今、どこにいる?……正直に言わぬと、喉をかききるぞ」 が、それは武士ではなかった。 忘れるはずもない。イダテンから勾玉を奪おうとした三白眼の男だ。 男は自分を捕えたのがイダテンだということに驚きながらも、痛みと息苦しさが和らぐと、ぺらぺらと喋り始めた。 「まて、まて、わしは敵ではない。お前も知っておろうが、阿岐権守様の邸で働いておる吉次じゃ。見よ、これ、このとおり鎧甲冑を身に着けておらぬではないか……少しでも遠くへ逃げたいと馬に乗ったまでだ」 次々と言い訳を並べたてる。     
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