第五十三話  ろくでなし

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「太刀は、そこいらで死んでおった武者から、馬は主を失い、うろうろしておったやつを捕まえたのだ……お前も助かったのじゃな。おお、ひどい有様じゃった。まさに、この世の地獄よ。あれでは生き残っておる者はおるまい。わしも命からがら逃げ出したのじゃ」 幾千もの兵に取り囲まれたあの邸から、馬に乗って逃げ出したというのか。 できるとしたら襲撃前だ。 間諜でもなければ、それを知ることはできまい。 「助かったのは、わしらだけであろうか?」 窺うように見上げてきた。 姫を伴っているのではないかと、探っているのだ。 「問いに答えよ」 「勘違いじゃ。わしは、ただの下男じゃ。そのような者と縁はない」 吉次は、喉を鳴らし、必死に訴える。 「馬に乗れる下男など聞いたことがない」 「いや……それは、昔、商いをしておったで」 「荷を運ぶための大事な馬に乗る商人はおらぬ」 そうは言ったが、いないわけではない。 だが、武士の鞍と商人の鞍は形状も違い、乗り方も違う。 喉に巻きつけた腕に少しだけ力を入れた。 並みのおとなとは比較にならない怪力に、吉次は、むせ返った。 「わかった、わかった。正直に話そう。実は、わしは馬木の隆家様が郎党じゃ。宗我部が兵を挙げたときに一刻も早くつなぎをつけるため、下男として潜り込んでおったのだ」 あきれた言い訳だ。 しかも、問いもせぬのに、喋り出した。 「わしは、お前の面倒をみていたヨシの……」 吉次の首に手斧をあてた。 この男が、三郎の言っていた、ろくでもない男だと確信した。   *     
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