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その言葉に、姫は息を飲んだ。
おばばとの約束は守れなかった。
何の罪もない三郎が、ミコが、ヨシが殺された。
そして今、その三郎が、自らの命を懸けてでも守らねばならないと言っていた姫が追い詰められている。
ただ一人、自分を友と呼んでくれた三郎の遺志を継ぎ、この姫を守らねばならなかった。
しかし、多勢に無勢。
逃げ回るよりも指揮している者を倒した方が生き残れる確率は遥かに高いはずだ。
「仇を打ちたくはないのか?」
その言葉に、姫の長い睫毛が震えた。
双眸から、ほろりと涙がこぼれ落ちた。
肩を落とし、うつむいた、その姿は親を殺された子狐を思わせた。
やはり、先ほどの話を聞いていたのだ。
薄々感じてはいただろう。
イダテンが、一縷の望みを絶ったのだ。
だが、意外な言葉が返ってきた。
「そのために、あなたまで失いたくないのです」
その、もの言いに戸惑った。
「……命など惜しくない」
間をおいて、そう答えるのが精一杯だった。
その言葉に、偽りはない。
所詮、鬼の命にすぎない。
姫が、すがるように見つめてきた。
その瞳の中には、紅の髪を持つ鬼の顔が映っていた。
「じいと約束してくれたのではありませんか。わたしを馬木まで送り届けると」
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