第五十四話  遺志を継ぐ者

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逃げまわるだけでは生き残れまい。 これまでの自らの生きざまに自嘲をこめ、そう口にしようとして、姫の袖口から数珠がのぞいていることに気がついた。 毎日、経を唱えていたおばばの姿と重なった。 神仏は何もしてくれなかった。 イダテンの家族にも、三郎や姫の家族、郎党にも。 人は、なぜ、そのようなものに頼ろうとするのだろう。 懐に手を入れ、首からかけた紐の先にある物を握りしめる。 とは言え、結局、自分もこれに頼ることになるだろう。 足の状態は、それほど悪い。 主人を守るのが武士の務めと胸を張っていた三郎の顔が浮かんだ。 お前が死んだら母者はどうするのだという、イダテンの言葉に寂しそうに笑った顔も。 「わかった。届けることを優先させよう」 その言葉に、姫が安堵の笑みを浮かべ小さく頷いた。 吉次が顔を紅潮させ声をかけてきた。 「おお、それがよい。道案内は、わしに任せてくれ。だてに郭を抜け出していたわけではない。いざとなれば頼れる仲間もおる」 さぞかし頼りになる仲間であろう。 「信用できぬというなら、わしが先行しよう。呼び止められるようなことがあれば、その間に隠れればよい」 姫の目が、連れて行くのかと問いかける。     
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