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逃げまわるだけでは生き残れまい。
これまでの自らの生きざまに自嘲をこめ、そう口にしようとして、姫の袖口から数珠がのぞいていることに気がついた。
毎日、経を唱えていたおばばの姿と重なった。
神仏は何もしてくれなかった。
イダテンの家族にも、三郎や姫の家族、郎党にも。
人は、なぜ、そのようなものに頼ろうとするのだろう。
懐に手を入れ、首からかけた紐の先にある物を握りしめる。
とは言え、結局、自分もこれに頼ることになるだろう。
足の状態は、それほど悪い。
主人を守るのが武士の務めと胸を張っていた三郎の顔が浮かんだ。
お前が死んだら母者はどうするのだという、イダテンの言葉に寂しそうに笑った顔も。
「わかった。届けることを優先させよう」
その言葉に、姫が安堵の笑みを浮かべ小さく頷いた。
吉次が顔を紅潮させ声をかけてきた。
「おお、それがよい。道案内は、わしに任せてくれ。だてに郭を抜け出していたわけではない。いざとなれば頼れる仲間もおる」
さぞかし頼りになる仲間であろう。
「信用できぬというなら、わしが先行しよう。呼び止められるようなことがあれば、その間に隠れればよい」
姫の目が、連れて行くのかと問いかける。
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