第一話  鬼の子

3/10
前へ
/408ページ
次へ
第一話  鬼の子 川屋(厠)から帰ってきて、わが目を疑った。 どこから()いて出たのだというほどの童どもが、武器庫の前に群がり、中にある物を根こそぎ持ち出そうとしていた。 荷車を持ち込んで(たて)を積み込む者までいる始末だ。 鍵はかかっていたはずだ。 こんなことで責任を問われたのではたまらない。 「やめろ! 何をしている。糞餓鬼どもが!」   怒鳴りちらし、力ずくで手前の二、三人を引きずり倒したが、童どもは(ひる)むどころかにらみつけてくる。 それどころか、たたみかけるような口上で、次々と責めたててきた。 「兵(つわもの)どもは、なにをぐずぐずしておるのじゃ。宗我部国親(そかべくにちか)が攻めて来るぞ!」 「赤目じゃ、赤目の国親(くにちか)が攻め入るぞ。(ひげ)兼親(かねちか)が先陣を切るぞ。弓を取れ! (ほこ)を持て!」 勢いに押され、差し出された矛を思わず受け取ってしまい、舌打ちする。 「馬鹿を言うな。ここをどこだと思っておるのだ。われらが主は、代々、帝を支え続けてきた摂関家の嫡流ぞ。いかに横紙破りの国親と言えど……」 ――最後まで告げることができなかった。 どん、と下腹に響く太鼓の音が、法螺貝(ほらがい)の音が。 そして大地を揺るがす(とき)の声が上がった。      *     
/408ページ

最初のコメントを投稿しよう!

305人が本棚に入れています
本棚に追加