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体を横にすると、わずかに痛みが軽くなった。
熱を帯びた体がだるい。
屋根の板をたたく雨音が眠気を誘う。
気を抜いてはならない、状況を把握しなければならないと思いながらも、うつらうつらと眠りにおちた。
目を覚ましたのは半刻も過ぎた頃だろうか。
かゆはすっかり冷めていた。
椀を手に取り、痛む体に鞭打って家を出る。
雨あがりの澄んだ空気が頬をなでた。
鳥のさえずりに目をやると、雨に洗われた、つややかな椿の葉が目に入った。
蕾もふくらみ始めている。
霞が、陽を浴びた吹晴山を登っていくのが見えた。
左右に長屋と塀が続いていた。
薪小屋や納屋らしいものもある。
運よく人の姿はない。
確かに、阿岐権守の使用人たちが住んでいる郭のようだ。
ただし、イダテンが寝ていた長屋の左右に人が住んでいる様子はない。
長屋後方の空堀土手の斜面で雀たちが何かをついばんでいた。
軒下に立てかけてあった板を見つけ道に置く。
その上に、椀の縁にこびりついていた米粒をのせ、痛めた左足を引きずるようにして進む。
頭が疼き脇腹に痛みが走る。
息をするのもつらい。
懐には端布でくるんだ包丁を忍ばせている。
手斧が見当たらなかったのだ。
鬼の子に武器を持たせると危険だと判断したのだろう。
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