第六話  郭の中

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体を横にすると、わずかに痛みが軽くなった。 熱を帯びた体がだるい。 屋根の板をたたく雨音が眠気を誘う。 気を抜いてはならない、状況を把握しなければならないと思いながらも、うつらうつらと眠りにおちた。 目を覚ましたのは半刻も過ぎた頃だろうか。 かゆはすっかり冷めていた。 椀を手に取り、痛む体に鞭打って家を出る。 雨あがりの澄んだ空気が頬をなでた。 鳥のさえずりに目をやると、雨に洗われた、つややかな椿の葉が目に入った。 蕾もふくらみ始めている。 霞が、陽を浴びた吹晴山を登っていくのが見えた。 左右に長屋と塀が続いていた。 薪小屋や納屋らしいものもある。 運よく人の姿はない。 確かに、阿岐権守の使用人たちが住んでいる郭のようだ。 ただし、イダテンが寝ていた長屋の左右に人が住んでいる様子はない。 長屋後方の空堀土手の斜面で雀たちが何かをついばんでいた。 軒下に立てかけてあった板を見つけ道に置く。 その上に、椀の縁にこびりついていた米粒をのせ、痛めた左足を引きずるようにして進む。 頭が疼き脇腹に痛みが走る。 息をするのもつらい。 懐には端布でくるんだ包丁を忍ばせている。 手斧が見当たらなかったのだ。 鬼の子に武器を持たせると危険だと判断したのだろう。
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