第一話  鬼の子

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人は自分たちの(えさ)の収穫に忙しかろうし、なにより、この崖は登れまい。 やっかいなのは狼だが、この場所であれば取り囲まれることはない。 落ち着きを取り戻し、ふと、空を仰いだ。 翼を広げた(たか)の姿が目に入った。 見る間に姿勢を変え、正面から挑むように降下してくる。 崖から追い落とそうというのだろう。 愚かな行為だ。 狙うなら、うさぎか(ねずみ)に絞るべきだ。 たとえ、餌が取れず、追い詰められているのだとしても後方から忍び寄るべきである。 とはいえ、降りかかる火の粉は払わねばならない。 自慢の角で迎え撃とうと頭を下げた。 その時、対面の崖から、何かがうなりをあげて飛んできた。 首をひねった途端、視界がぶれ、目の前が赤く染まった。     * それが自分の首から噴き出す血で、飛んできた手斧が自分の喉をかき切ったのだと理解する前に、牡鹿は意識を失った。 そして、岩場に降り積もった紅葉を撒き散らしながら谷底に落ちて行った。     * 対岸の崖の窪みにある灌木(かんぼく)が揺れて、異形の者が姿を現した。 それは、まさしく異形(いぎょう)だった。 それは、地獄の炎を思わせる、燃え上がるような紅い髪の毛を持っていた。 その鮮やかさは、とてもこの世のものとは思えなかった。 しかも伸びるにまかせた髪の毛の量は常人の十倍はあった。     
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