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第十二話 この世に並ぶ者なし
「じい!」
制止する姫の声が聞こえた。
だが、姫が止めなくても忠信は太刀を抜かな
かっただろう。
イダテンの目を見たからだ。
これほど暗い目をした小童を見たことがない。
生に執着しなくなった者の目だ。
不憫なことだ。
わずか十歳にしてこの世に絶望している。
あれはまだ、忠信が御衣尾にある六地蔵に供え物をしていた二年ほど前のことだ。
兼親の郎党と思われる男が崖から落ちて命を落とした。
忠信が追い込んだのだ。
その男が直前にイダテンに矢を射かけていたからだ。
あの時、イダテンはいともたやすくよけた。
ところが、こたび、こやつはあっさりと倒されていた。
しかも、姫の牛車の前で、だ。
衣が濡れ、熱を出していたのは確かだったが、イダテンを痛めつけていた男達のことを調べさせた。
武辺者と言われる忠信とて、それぐらいの頭は回る。
兼親たちとつながっていたことが分かった。
イダテンを潜り込ませるための策ではないかと疑った。
イダテンが自分の意志で姫や主人の命を奪いに来るとは思わなかったが、おばばが質に取られていたら話は別だ。
そう考えたからだ。
だが、いらぬ心配だったようだ。
少なくとも人の命を奪おうとする者の目ではない。
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