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忠信は柄から手を離したが、梅ノ井の興奮はおさまらなかった。
「なっ、なんという無礼なもの言い! 忠信殿、このような者を許しておいて良いのですか?」
「梅ノ井殿」
忠信は、梅ノ井のかん高い声にうんざりしながらも感情を押し隠した。
もともと世の習いにうるさい、このおなごとは性が合わぬのだ。
「梅ノ井殿の言われるように、恩人である姫様にとる態度ではない――わしとてそう思いますぞ。とはいえ、梅ノ井殿も知ってのとおり、イダテンは、その力、この世に並ぶものなしと言われたシバの子じゃ。イダテンが怒りに任せ暴れ始めたら、止められるものはおるまい……さて、その責は誰がとるのかのう」
先ほどまで赤かった梅ノ井の顔が見る間に蒼くなった。
「で、ですから、わたしは、姫君を鬼の子に会わせるべきではないと申し上げたのです。責というのであれば……」
「確かに責は、この忠信にありましょう――ならば、ここは、わしに任せてもらえぬか」
「ですが……」
それでも納得できぬ様子の梅ノ井に姫が、
「梅ノ井の気持ちは嬉しく思いますが、ここは、じいに任せましょう。なにやら大事な話もあるようですし」
今度は――じい、だ。
やはり、おなごは歳や見かけで判断すべきではない。
姫は、ため息をつく忠信に、
「そうですね?」
と、たたみかけるように念を押した。
誰をも、とろかせる笑顔をそえて。
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