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朱塗りの反橋が架かる山水を模した庭園に目をやった。
何とも贅沢なことだ。
野に出ればすむものを、ここまで手をかけるとは。
女房たちが姿を消すと、姫が待ちかねていたようにイダテンに話しかけてきた。
「お母様は、もちろんですが、媼――おばば様も、さぞかし美しい方なのでしょう?」
なにを言っているかわからなかった。
ものごころがついたときから、おばばは、おばばだ。
日に焼け、しわだらけで、腰は曲がり、指も節くれ立って曲がっていた。
怪訝な表情のイダテンに、姫が楽しげにつけくわえた。
「その昔、おばば様にあこがれた殿方が大勢いらしたとか。じいなど、まるで想い人のことのように語るのですよ」
「――いや、姫様にせがまれて、思い出話をしたまで……ここで、そのような話は」
「告げ口などしませんよ」
老臣のあわてぶりを面白がるように姫は忠信の妻と思われる名を出した。
言われてはじめて、おばばが齢、五十にも届いていなかったはずだと気がついた。
目の前の老臣より遥かに年老いて見えた。
苦労がそのような姿にしたのだろうか。
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