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人として扱われず、働き手である男もおらず、田も畑も与えられない。
助けてくれる者もいない。
百姓育ちでもない老いたおなごが嬰児をかかえ、なにができただろう。
イダテンの父であるシバが逝って十年。
今のイダテンならば狩りもできよう。
山の奥まで入って芋や実や菜を採ることもできよう。
それまでは常に餓死する恐怖にさらされてきたはずだ。
自分であれば耐えることができただろうか、と自問する。
生きていく、その原動力が、いずれ、この孫が怨みを晴らしてくれるという妄執だったとしても責めることはできまい。
しかし、あのおなごにはできなかったのだ。
それは、決して昔、惚れたおなごへの願望ではない。
イダテンの目を見ればわかる。
生きる喜びを知らぬ者の目だ。
生きる目的を失った者の目だ。
たったひと言、宗我部に怨みをはらせ、と口にしてくれれば使いようもあったものを。
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