第十四話  この地の支配者

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このところ頻繁に、みぞおちあたりがきりきりと痛む。 姫の父であり、わが主人である阿岐権守が、うとんじていた宗我部兄弟の評価をあげつつあるからだ。 流罪の身の主人としては、邸に閉じこもり謹慎生活を送るほかなく、国司としての実務はこの地の役人に任せている。 郡司である宗我部国親は、領民から年貢を徴収し、受領である阿岐権守に遅れることなく届けている。 それだけを見れば有能である。 どれだけ、ごまかしているかを別にすれば。 事実、国親はろくでもないやり口で蓄財を増やしている。 本来の税の上にさらに税を掛け、不法な労役を課し、税の払えぬ者は下人とする。その下人を税の免除を受けたおのれの開墾地で働かせるのだ。 加えて、敵対するものは手段を選ばず葬り、領地を広げ、手下を増やしてきた。 今や、その支配は、阿岐一国に及ぼうとしている――問題なのは、それでも満足していないことだ。 わが主人は、代々、人の上に立つ摂関家の嫡子として生まれてきた。 育ちが良いといってしまえばそれまでだが、考えが甘いのだ。 自分や帝が命を出せば誰もが従うものと思っている。 だからこそ、若くして関白に手が届くところまで昇進しながら、このような鄙びた地に国司として流されることになる。 十年を過ぎたが未だに赦しはでない。 都への執着も尋常ではない。 自分に取って代わった男は内覧の宣旨を受け、その地位を盤石としているにもかかわらず、金に糸目をつけず、帰れるよう工作をしている。 だが、都に戻ったところで、かつての栄華を取り戻すことなど叶うまい。 帝の臣下として最高位に就くはずだった主人には、むしろ辛いだけだろう。     
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