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一方で、この地にとどまり続けるのも危険だった。
主人の前では慇懃にふるまってはいるが、国親には前科がある。
宗我部兄弟の横暴なふるまいにいらだっていたのは領民だけではなかった。
隣接する地を治める船越の郷司、船越満仲が、宗我部に不満を持つ近隣の土豪郎党に声をかけ、邸で対応の話し合いを持った。
その情報を手に入れた国親は、期を逃さず満仲の館を取り囲み、一人残らず葬り去ったのだ。
館にいた、おなごも赤子も区別なしに。
死人に口無し、というわけだ。
宗我部国親が描いた絵図は――税をごまかしていた船越満仲一党が、証拠隠滅を図り国衙の焼き討ちを画策し、その情報を得た宗我部一党が館を取り囲むと、抵抗ののち、自ら火を放ち自害した――というものだった。
国親にとっては反対勢力を一掃する好機であった。
私闘であれば処罰の対象になるが、その点も抜かりはなかった。
脅迫と賄賂により、追補史を兼任していた当時の国司から、討伐の委任状をとりつけていたのだ。
凶党を倒したとして、宗我部国親は船越満仲や賛同した者たちが所有していた領地、財産を報奨として受け取った。
新しい郷司には、満仲が税をごまかしていたと証言した領主が選ばれた。
忠信のよく知る男である。
それ以降、郷司や保司をはじめ多くの土豪がなびき、口を閉じた。
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