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「歩けるのは知っておるぞ、時おり抜け出しておろうが」
気がついても不思議ではないが、ならば、どうして放っておくのだろう。
三郎といい、名も知らぬ監視役といい、鬼の子が何をやらかすかと心配ではないのだろうか。
「おれは良い」
そっけなく答えると、三郎は、わざとらしくため息をついて見せた。
「おまえが良くても、わしが困るのじゃ。飯を抜かれたうえに殴られるのだぞ。おかあは、ああ見えて結構、力が強いのじゃ。しかも頭痛持ちでな。そのようなそぶりのときには特に用心が必要じゃ。機嫌を損ねようものならすぐに平手が飛んでくる。一度など、拳が飛んできたのだぞ」
話が長くなりそうだ。
切り上げようと、
「柴刈りか?」
と、問うと、三郎は腕を組んで不敵に笑った。
「そんなものは後回しじゃ。ぐずぐず言うな、誰がおまえの看病や世話をしたと思っておる」
寝こんでいた時のことは覚えていない。
以外な言葉に三郎の顔をまじまじと見た。
三郎は、ふてくされたように空を見あげる。
「まあ、実際に世話をしたのはおかあで、助けたのは姫様じゃがな」
三郎は腕を腰におき、大げさにため息をついて見せる。
「……いや、母上じゃ、母上……なんとも面倒じゃのう」
「さて……」
と、打ってかわって三郎は笑顔を見せ、声を張った。
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