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三郎が眉にしわを寄せ、吐き捨てるように口にした。
「侍たるもの、主人を守るために命を捨てる覚悟がなければ務まらぬというのに、どいつもこいつも臆病で使い物にならぬわ。加えて度量ひとつない。これでは、いざという時、役には立つまい。ただ飯を食っているようなものではないか」
三郎の怒りが伝わったのか、ミコは、
「おくびょーものー」
と、去っていく二人を追いかけようとして三郎に抱き上げられた。
それでも右足を突き出し、蹴りの姿勢を見せる。
「まあ良い。回し方の手順を教えるときに大勢おっても仕方がないからのう」
三郎はミコをなだめながら、逃げ出した童たちの独楽の一つを手にした。
「ちょうど良い。戦利品じゃ」
「人のものであろう」
三郎は、何を言われたのかわからぬ様子でぽかんとしていたが、突然、笑い出した。
「かたいのう。盗むわけではない。ちょっと借りるだけじゃ」
もっとも、独楽を賭けた試合をすることもある、とつけ加えた。
わしはちょっとした独楽長者なのじゃ、という自慢も忘れなかった。
三郎が巻き方と投げ方を二度やって見せた。
「良いか、こうやって、紐は握ったまま、最初は水平に投げてみろ。しゅっと投げて、すぐに紐を引くのじゃ。投げるというより引くのじゃ」
「しゅっ、しゅっ」
ミコが、まねてみせる。
「ミコにもやらせて、ミコにも」
と、三郎の独楽に手を掛ける。
まあ待て、となだめて腰に括りつけた袋から紐と独楽を引っ張り出した。
墨でもぬりつけたのか独楽は真っ黒に染まっていた。
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