第十六話  侍たる者

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三郎が眉にしわを寄せ、吐き捨てるように口にした。 「侍たるもの、主人を守るために命を捨てる覚悟がなければ務まらぬというのに、どいつもこいつも臆病で使い物にならぬわ。加えて度量ひとつない。これでは、いざという時、役には立つまい。ただ飯を食っているようなものではないか」 三郎の怒りが伝わったのか、ミコは、 「おくびょーものー」 と、去っていく二人を追いかけようとして三郎に抱き上げられた。 それでも右足を突き出し、蹴りの姿勢を見せる。 「まあ良い。回し方の手順を教えるときに大勢おっても仕方がないからのう」 三郎はミコをなだめながら、逃げ出した童たちの独楽の一つを手にした。 「ちょうど良い。戦利品じゃ」 「人のものであろう」 三郎は、何を言われたのかわからぬ様子でぽかんとしていたが、突然、笑い出した。 「かたいのう。盗むわけではない。ちょっと借りるだけじゃ」 もっとも、独楽を賭けた試合をすることもある、とつけ加えた。 わしはちょっとした独楽長者なのじゃ、という自慢も忘れなかった。 三郎が巻き方と投げ方を二度やって見せた。 「良いか、こうやって、紐は握ったまま、最初は水平に投げてみろ。しゅっと投げて、すぐに紐を引くのじゃ。投げるというより引くのじゃ」 「しゅっ、しゅっ」 ミコが、まねてみせる。 「ミコにもやらせて、ミコにも」 と、三郎の独楽に手を掛ける。 まあ待て、となだめて腰に括りつけた袋から紐と独楽を引っ張り出した。 墨でもぬりつけたのか独楽は真っ黒に染まっていた。
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