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「どうじゃ、おまえに似合う色にしてみた。きのうこしらえたのじゃ」
と、言いながらつけ加える。
「赤にしたかったが、赤い染料はいささか高いのでな。ほれ!」
イダテンは、手を出そうとして躊躇した。
「ほれ、手を出せ。出さねば渡せぬではないか」
三郎の督促に、ゆっくりと左手を差し出す。
急かした三郎だったが、今度は自分が躊躇した。
肘から先、甲までを覆う獣のような紅い毛に脅えたのだろう。
が、それを振りきるように両手で包むように手渡してきた。
そして、にっ、と笑顔を見せる。
おばば以外の人から物を手渡されるのは初めてだった。
あらためて自分が人ではないのだと感じた。
三郎の言うとおりに軽く投げると黒い独楽は音を立てて回った。
ミコが、じょうず、じょうずと、はしゃいで回り、
「ミコにも、ミコにも」
と、三郎の腕をとる。
「おおっ、筋が良いな。一度で回せるやつは、そうはおらんぞ」
相手にしてもらえないミコは、頬を膨らませる。
そして拾った独楽に自分で紐を巻こうと悪戦苦闘を始めた。
「次は相手の独楽にぶつけて弾き飛ばすのじゃ……」
木目の美しい独楽だ。
「それ、まずは、わしが投げる」
三郎が投げた独楽は地面に棒で書かれた輪の中ほどに止まって回転を続けた。
「さあ、おまえの番じゃ。ぶつけて輪から外に……」
三郎の言葉が終らぬうちに投げた。
ぱん! と、弾けるような音に驚いたミコが振り返った。
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