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断って、自分の弓と矢を手にする。
その矢と筒袋に残った矢を目にした三郎が、あきれたように訊いてきた。
「何じゃ、それは……」
見ればわかるだろうという顔でイダテンは答えた。
「矢じゃ」
「それはわかっておる。矢羽も軸も不揃いではないか」
「熊や鹿に持っていかれたのだ」
「おお、獣はしぶといからのう。矢が刺さったまま、いくらでも走りよる……で、自分で作ったのか?」
「ほかにあるまい」
見よう見まねで作った。矢羽も、狩りでしとめた鳶(とび)のものだ。
「そんな矢では当たらぬぞ」
「当たらぬ、では、飢え死にする」
イダテンの答えを三郎は鼻で笑った。
「慢心ではないか? その矢では、名手といえど、五本に一本も当たるまい。一本でも当たったら、今日のわしの夕餉はおまえにやろう」
「そのような話にはのれん」
三郎は、にやりと笑った。
「では、こうしよう。勝ったものが菜をもらうというのはどうじゃ? 菜を一度抜くぐらいなら支障はあるまい」
食べ物に固執するたちのようだ。
面倒なので受けることにした。
「わしは同い年の者との競弓では負けたことがないのじゃ。そもそも、この距離を飛ばせる者も珍しい」
三郎も自信ありげに自分の弓を突きだした。
矢ごとに癖はあるが、それは熟知している。
ぶれを抑えるための工夫も怠っていない。
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