第十七話  競弓

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断って、自分の弓と矢を手にする。 その矢と筒袋に残った矢を目にした三郎が、あきれたように訊いてきた。 「何じゃ、それは……」 見ればわかるだろうという顔でイダテンは答えた。 「矢じゃ」 「それはわかっておる。矢羽も軸も不揃いではないか」 「熊や鹿に持っていかれたのだ」 「おお、獣はしぶといからのう。矢が刺さったまま、いくらでも走りよる……で、自分で作ったのか?」 「ほかにあるまい」 見よう見まねで作った。矢羽も、狩りでしとめた鳶(とび)のものだ。 「そんな矢では当たらぬぞ」 「当たらぬ、では、飢え死にする」 イダテンの答えを三郎は鼻で笑った。 「慢心ではないか? その矢では、名手といえど、五本に一本も当たるまい。一本でも当たったら、今日のわしの夕餉はおまえにやろう」 「そのような話にはのれん」 三郎は、にやりと笑った。 「では、こうしよう。勝ったものが菜をもらうというのはどうじゃ? 菜を一度抜くぐらいなら支障はあるまい」 食べ物に固執するたちのようだ。 面倒なので受けることにした。 「わしは同い年の者との競弓では負けたことがないのじゃ。そもそも、この距離を飛ばせる者も珍しい」 三郎も自信ありげに自分の弓を突きだした。 矢ごとに癖はあるが、それは熟知している。 ぶれを抑えるための工夫も怠っていない。
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