第二十話  異形のモノ

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「物知りじゃのう、おまえは。それに、遠目もきく」 餓死の不安から解き放たれるまでは、生きるために何でも食べた。 それで死にかけたことも一度や二度ではない 「それでは、これじゃ、これなら良かろう。こいつはうまいぞ」 地面に落ちていた三角錐の実を歯でこじ開ける。 ブナの実だった。 だが、口にした途端、ぺっと吐き出した。 「なんと、虫が入り込んでおる……地面に落ちて日がたっておったようじゃ」 贅沢なことだ。 虫が入り込んだだけで捨てるとは。 虫を除いて食えばよいではないか。 イダテンにとって虫は嫌悪すべきものではない。 山で見かける、よく知らぬ実や葉、茎が食えるか食えないかを見極めるには虫が食っているかどうかを見ればよい。 たまに例外はあるが、そのそばに、虫の死骸がなければ、それは食えるということだ。 好んで食いはしないが餓死を目の前にすれば、そのようなことは言っていられない。 うまいまずいよりも、食えるか食えないかだ。 虫には滋養もある。 あくの強いトチの実は飢饉の際の非常食だと言われているが、これにどれだけ助けられたことか。 「兄上、かたぐるまして。ねえ、ねえ」 ミコが、ぐずり始めた。疲れてもいるのだろう。     
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