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第四話 三白眼の男
何もせずとも、じっとりとした汗がにじみだしてくる。
明かりとりの窓ひとつない岩で囲まれたこの部屋が、血と汗と腐臭に満ちていたからだ。
目の前には、筋肉質で長い髪をもった六尺はゆうに超えるであろう男がうつ伏せに倒れている。
光がほとんど入らないため、何もかもが黒く見える。
血の色さえもだ。
男は、二本の太い丸太を組み合わせた拘束具で首と左右の手を固定されていた。
樫の木と鉄の輪で作った極めて丈夫なものだ。
体には、あらゆる拷問を受けた痕が刻まれていた。
棒で殴られたあとはもちろん、鋸で挽いた痕さえある。
火傷の痕に加え、指の爪も剥がれている。
あちこちに蠅がたかっていた。
腐りはじめた肉に卵を産みつけているのだ。
もうじき蛆がわくだろう。
「頑固なやつよ。あばら家で臥せっている妻や義母が哀れと思わぬか」
その野太い声はよく響いた。
「早う白状すれば楽になれるものを。往生際の悪いやつじゃ」
そう言いながらも、声は喜びにあふれていた。
それでこそいたぶりがいがあるとでも言うように。
「おなごとて火つけや流言ぐらいはできよう」
別の声が聞こえた。
「おお、ならば同罪じゃ。引っ立てて罪に問わねばならん」
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