第五話  家族
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第五話  家族

男が出て行くと、おなごは、冷たい風が吹き込む戸口を閉め、体をかがめ、 「大丈夫だよ」と、女童を抱きしめて、 「あんな男のどこが良かったんだか」と、つぶやいた。 「こたびばかりは、黙っておくわけにもいかないだろうねえ」 勾玉を回収しなければならない。 おなごの様子をうかがいながら、立ちあがろうとしたとたん、体中に痛みが走った。 漏らしそうになった声を飲み込んだ。人間に弱みを見せてはならない。 右腕の痛みはどうにか我慢できるが、動かすと全身が悲鳴を上げる。 背を床につけていなければ盗人を投げ飛ばすこともできなかっただろう。 額には髪の毛がべっとりと貼りついていたが、払いのける気にもなれない。体もだるい。 「腫れは引いてきましたが、治るまでには日がかかりましょう。ゆっくりとしていきなさい。ここは遠慮がいるような、お屋敷ではありませんからね」 そう言われて思い出した。鹿の毛皮を売りに行った先で襲われたのだ。 先ほどの盗人はむろんのこと、目の前で微笑んで見せる丸い顔のおなごにも見覚えがなかった。 自分がどこにいるかさえわからなかった。 身に着けている紺地の衣も自分のものではない。 「ここは……どこだ?」 喉も痛む。     
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