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第六話 郭の中
ヨシは、邸の夕餉の支度があるからと出かけていった。
夕餉には早すぎる気がするが、材料の調達や下拵えもあるのだろう。
三郎は、蓑と笠をつけ、ミコを連れて畑に出ていった。
確かに武士とは名ばかりの暮らしぶりのようだ。
兄者が、という話も出ていたから家族は、ほかにもいるのだろう。
一緒に住んでいる様子がないところを見ると家を出たのだろうが。
静かにはなったものの、どうにも落ち着かなかった。
人の家に上がりこんだことなど一度もない。
正しく言えば、あげてくれるものなどいなかったのだ。
とはいえ、しばらくは、ここで世話になるしかあるまい。
体を動かすと筋や節々が悲鳴を上げる。
頭も疼く。
自分の家までたどり着くどころか、この街を出ることさえできそうになかった。
しかし、二日間もこのような場所で寝込んでいたのかと思うと、ぞっとする。
よくぞ、寝首をかかれなかったものだ。
それどころか怪我の治療と看病まで行うとは。
なぜだ、と問うたところで正直には答えまい。
わかっているのは、目的もなくこのようなことをする人間はいないということだ。
あえて探る必要はないだろう。
いずれ向こうから切り出してくるはずだ。
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