第七話  流罪

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第七話  流罪

あいかわらず風は冷たいが、明るい陽射しが山に畑に降り注いでいた。 手前の林から、雉鳩独特の鳴き声が聞こえてくる。 街並みの先には天神川と稲穂の輝く田があった。 イダテンは熊の毛皮を打ち掛け、手には弓を、背には箙代わりの筒袋を、腰には手斧を手挟んで岩の上に立った。 ヨシが葛籠の中に保管してくれていたのだ。 熱の下がりきらない火照った顔で、眼下の寝殿造りの美しい邸に目をやる。 この敷地だけで一町歩(※一辺、約109m)はあるだろう。 都から遠く離れた鄙びた地には過ぎた邸だった。 邸は丘陵を削った高台にある。 背後の左右には吹晴山と長者山がそびえ、邸の後方には大岩を幾重にも重ねたような崖がそそり立っている。 邸の手前と左右は、高台の段差を利用して空堀や土塁を築き、塀を立て、三つの郭で囲んでいた。 その空間に使用人や職人、侍たちの住む長屋に加え、馬場や弓場を取り込んでいるのだ。 邸に至るまでの門は一直線に並んでいない。 日常を考えると不便極まりない作りだった。 敵が攻めてくるときの備えである。 唯一、牛車を直接、邸に着けるための橋が長者山側から伸びている。
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