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第十四話 この地の支配者
釣殿から眺める丹塗りの唐橋の鮮やかさとは対照的に姫の表情が暗い。
このように哀しげな姫の姿は見たことがなかった。
急かされたとはいえ、まずは忠信が会って様子を見てからにすべきだった。
とんだ思い上がりだった。
その成長を時おり覗き見ただけでイダテンの気性を把握しているつもりになっていた。
「イダテンは、もしや笑うことができないのではありませんか?」
「そのようです」
「なぜ、そのようなことになったのでしょう?」
「幼き頃から感情を抑えて生きてきたのでありましょう……父母の愛があれば、また、違ったやも知れませぬが」
「おばば様がいらしたのであれば」
扇を握る手に力が入る。
姫の言葉が心をえぐる。
「イダテンの獲ってきた獣を街に売りに来て、代わりに塩や生活に必要なものを持ち帰っていたようです」
忠信の言葉を姫が引き継いだ。
「公平な取引とは言えなかった……のですね」
ずいぶんとひどい扱いを受けていたとも聞いた。
「笑うことはおろか、怒りを見せることもなかったと聞いております」
その年齢以上に老けて見えた。
その昔、住んでいた地名から「宮小町」と呼ばれた美貌は見る影もなく、まるで老婆のようであった。
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