第十五話  わが名は三郎

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第十五話  わが名は三郎

外が明るくなってきた。 もうじき陽が昇る。 胡坐をかき、目の前の三寸四方に切りだした美しい木目の檜を手に取った。 伐採された木の根元からとったものだ。 じっと見つめていると、削りだすべき物の形が浮かび上がってくる。 左手がもう少し、いうことを利くようになれば彫ってみよう。 「たのんだよ、三郎。わたしは、お邸の夕餉の支度があるからね」 しびらをはずしながらヨシが三郎に声をかける。 独楽の手入れに余念がない三郎は、あいかわらず振り返りもせずに声だけを返す。 「柴刈りと畑の水やりはやっておくで」 「助かるよ」 ヨシが出て行くのを待っていたかのように、三郎が、すり寄ってきた。 「知っておったかイダテン。お邸では……」 石なごでひとり遊びをするミコを横目で眺め、 「お邸の夕餉には菓子もついておるそうじゃ。うらやましいのう」 とつぶやいた。 もったいぶって声をひそめるから何事かと思えば、また、食べ物の話だ。 そのような話をされても答えようがない。 同意が得られないのが不満らしく、三郎は面白なげに立ち上がった。 「行くぞ」 ミコに言っているのだろうと聞き流していたが、そのミコがイダテンを見つめている。 無言で見上げると、三郎と目があった。
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