279人が本棚に入れています
本棚に追加
/408ページ
第十七話 競弓
弓場に入ると、端の方で何かをついばんでいた雀たちが飛びたった。
三郎が競弓(くらべゆみ)を挑んできたのだ。
山の斜面の下に巻藁の的が三つ。
斜面の上には椎の木の間に縄を渡し、そこからぶら下げた板が五枚あった。
これも的なのだろう。
直径三尺の巻藁から三十三間(※約60m)ほど離れた場所が大人の距離。
童は、その半分の位置から射るのだという。
三郎が弓を差しだす。
初めての弓が使いこなせるかどうかに不安はあったが、公平を期すならやむ終えないだろう。
鏃(やじり)の先は修練用に潰してあった。
渡された弓と矢を持って大人が射る場所に向かう。
「おお、自信満々じゃのう」
三郎が、にやにやと笑いながらついてくる。
三郎も自信があるようだ。
ここだという場所について、試しに矢をつがえ弦を引くと、弓が、びしっ、という音を立てて割れた。
三郎は、わずかに驚いた様子を見せ、もう一張を差しだした。
「気にするな。伯叔ごが童の頃につこうておったものじゃ。古くなって傷んでおったのだろう。これを使え」
古いこともあろうが、合わせ目の膠(にかわ)がイダテンの握力に耐えられなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!