第十七話  競弓

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第十七話  競弓

弓場に入ると、端の方で何かをついばんでいた雀たちが飛びたった。 三郎が競弓(くらべゆみ)を挑んできたのだ。 山の斜面の下に巻藁の的が三つ。 斜面の上には椎の木の間に縄を渡し、そこからぶら下げた板が五枚あった。 これも的なのだろう。 直径三尺の巻藁から三十三間(※約60m)ほど離れた場所が大人の距離。 童は、その半分の位置から射るのだという。 三郎が弓を差しだす。 初めての弓が使いこなせるかどうかに不安はあったが、公平を期すならやむ終えないだろう。 鏃(やじり)の先は修練用に潰してあった。 渡された弓と矢を持って大人が射る場所に向かう。 「おお、自信満々じゃのう」 三郎が、にやにやと笑いながらついてくる。 三郎も自信があるようだ。 ここだという場所について、試しに矢をつがえ弦を引くと、弓が、びしっ、という音を立てて割れた。 三郎は、わずかに驚いた様子を見せ、もう一張を差しだした。 「気にするな。伯叔(おじ)ごが童の頃につこうておったものじゃ。古くなって傷んでおったのだろう。これを使え」 古いこともあろうが、合わせ目の膠(にかわ)がイダテンの握力に耐えられなかったのだ。     
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