ご隠居愛人

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京香は石畳のコンコースでカツカツと威嚇するようにヒールを鳴らし、先の赤信号で立ち止まった。その先には20階建てのマンション。この街では一番高層な建物だ。 駅前、新築、その最上階。 それは彼女が自ら選んで購入したものではなく。 彼女の愛人、舘野浩一郎は東京に本社を構えるゼネコングループCEO。知りあいの栃木市長に頼まれて駅前の一等地にマンションを建て、その最上階に京香を住まわせている。 市としては減少傾向にある人口をなんとか上向きにしようとマンションを誘致。 駅前にででんと3棟建てたはいいが、最寄りのスーパーは直線距離で2キロ、総合病院は3キロ。路線バスもたいして本数はなく、車がなければ生活が成り立たないので、売れ行きは今ひとつだった。 それでもパトロンの舘野浩一郎はこのマンションが気に入っている。 ここ栃木はゴルフ場がふんだんにあり、東京からのアクセスもいい。車なら高速道路で1時間ちょい、東武線特急でも1時間ちょい。通勤通学も可能なほど東京は近かった。 ……のわりに、ほんと、田舎なんだけど? マンション最上階から見える夜景は商店街側ですら瀕死のホタルが数匹程度のもの。反対側にいたっては海原ですか?と聞きたくなるほど真っ暗な田んぼと畑。 なにが最上階なの。 まだド田舎ダ埼玉の大宮のワンルームの方がよっぽどいい。 ふう。     
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