ご隠居愛人

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黒髪の長めのマッシュレイヤー、中性的な色白の顔は均整が取れていて、京香は一瞬ドキリとした。すっと嫌みなく通る鼻、主張しすぎない二重瞼。薄く横に伸びる唇。右の目尻にあるホクロがどうにも色っぽい。 年の頃はいくつだろう。 大学生にも見えるが、妙な落ち着き具合。 美少年? 美青年? どちらにせよ自分よりも年下だろう、と京香は彼の顔を眺めた。 注文を受けた男の子はカチンとガス台に火をつけ、ドリップの準備を始める。流れるような所作に京香は見取れていた。 白く透き通る手の甲、長い指。 しわもシミもない腕は浩一郎とはまったく別の生命体に思える。 赤ちゃんみたいなスベスベ肌。 「ねえ。なんかしゃべってよ」 「しゃべるんですか?」 「こういう屋台って客と話をするのが定石じゃないの。待たされる間、なんにもないのはつまんないんだけど」 「オレ、苦手なんですよね。初対面のひとと話すの」 「あのね。客をばかにしてんの?」 「コーヒーを入れるのに集中させてもらえません?」 「たかだか500円のコーヒーに」 「どうしても話したいなら聞くぐらいは出来ますから、勝手にどうぞ」 ふん。見た目に反して可愛くない性格だ。 「なんなの、この栃木市って。県名が付いた市なのに県庁所在地じゃないとか」 「昔は県庁ありましたよ。建物も残ってますし、掘もあります」 「中途半端な街よね。田舎だけど大自然に囲まれたというほどでもないし、かといって店も少ないし」     
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