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四
普通、入門した力士は身体検査や健康診断などの新弟子検査クリアしたあと、前相撲を取ってから番付に名前が載る。
俺もそうやって上がってきた。
スピード出世の栃東関や朝青龍関でも入幕するまでには丸二年、十二場所かかってる。
番付の下から這い上がってくのは、ほんまにシンドいことなのだ。
けどその点、学生時代に特定大会でそれなりの成績を出した大学出身者は、特別の立ち位置から始めれる。
『幕下付け出し資格』。
いきなり幕下の最下位とか、 特別の位置からスタートできたりする。
雅山関なんか入門してから四場所連続優勝して、五場所目には入幕してしまってるくらい。
それくらい学卒は得なのだ。
そんな学卒力士として、秋津が立ちはだかっている。
同じ十両、前頭狙い。
気になるコの手前もあり、ぜったい負けるわけにはいかなかったが、それは向こうも同じだった。
丸い土俵。
蹲踞の姿勢で、秋津は俺を睨んでいる。
瞳をのぞき込んでるだけで、秋津の日々が見えた。
俺は秋津を勝者と思っていたが、秋津は人生を破綻したと感じていた。
俺が関産に行かなかったことで、秋津の価値も下がったのだ。
目減りした価値を補おうと、秋津は無理し、故障して、今場違いなここにいる……
俺のせいだと言いたいためだけに?
そうだな秋津。
おまえは確かにそういうとこあった……
がっぷり組んだ。
細いからだのどこにそんな力があるのか、秋津は俺を受け止めきり、あろうことかつり出そうとさえ目論んで、まわしをとる手に力を込める。
それは無理だ、止しとけ。
ああ。
よしとくかな。
秋津の力が抜けかかる。
今だっ!
と体を巻き替えようとしたその刹那、秋津は力を込め直した!!
かるがると、
自分が舞い、
気付くと土俵の下にいた。
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